銀様とベランダでお祈りしてみた。
「どうしてこんなことをしないといけないのよ」
とどこか不満げな顔をしつつも、先程まで目を閉じてちゃんと何かを願っていたようだ。
「今日は七夕って言って、願い事すれば叶う日なんだよ。本当は竹に短冊とかつけてお祈りするんだけど、できないしさ」
ふぅーん。とだけ銀様が言った後、
「ところでお前はなにを願ったのぉ?」
と聞いてきた。
「……どうしても言わないとダメか…?」
「当然よぉ。誰の命令だと思ってるの?」
「ん…とな。銀様がアリスになれますようにってね」
突如顔を赤くした銀様がしどろもどろに言う。
「何バカなこと言ってんのよ。そ、そんなことお前にされなくても私はアリスになるわぁ!」
で、銀様はなにお願いしたのかなー?ん?
「何で言わないといけないのよ」
「俺も言ったし、銀様も言わないと」
「心から愛されて、抱きしめられますように」
とても早口で小さな声で下を向きつつ銀様が言った。
「ほ、ぉぉ…そんなにお父様がっ」
銀様が無言で俺の脛を蹴り上げて俺の言葉を遮った。
「でも、私のことを想ってくれてありがとね」
とだけいって一人さっさと家に引っ込んでいるあたり照れてるのか…?
ホントに銀様は可愛いなぁ(*´Д`)
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「ほ〜ら、まだ私の足でぐりぐりして欲しいの!?」
銀様が足を小刻みに動かす。
大きく円を描くように踏みつけ、優しくゆっくりと形を整え、そしてソレをまた踏み潰すように踏みつける。
「銀様っ!いいよ!もうちょっと!!」
「ウフフ…足で踏まれてどんどん形が変わってるわぁ!」
銀様が今度は体重を乗せて踏み始めた。
「うぅっ!もういいよ銀様っ!!」
「まだ全然たりなぁーい満足できなぁい」
そういって加虐的な笑みを浮かべる銀様の顔をみると心のそこからゾクゾクしてくる。
グチャという擬音が正しいだろう。
銀様が益々力を入れて踏み始めた。
「もうダメ!もういいよ銀様ぁ!!!」
俺は銀様が踏んでいるものを横から取り上げる。
「あらぁ…まだ踏み足りないのにぃ」
そう言いながら額から一筋流れる汗を拭い、キラキラした目で見ている。
「明日の朝はコレでピザだからね!楽しみにしててよ銀様!」
本当は手でこねるものだが、どうしても銀様がやりたいと言うので代わってみると、
銀様の手では体重をかけてもなかなかできなかったので、ラップを大きく切って生地を上下に挟んで銀様に踏んでもらっていた。
「ウフフ…せっかく私が丹念にふんだんだから、不味くしたらおこるわよぉ」
俺は笑いながらおまかせくださいと応えた。
とても明日が楽しみだった。
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「ほーら…ダメよぉ!」
そう銀様は言いつつ俺の尻を軽く叩いた。
現在俺は銀様の椅子にされているのだ。
なぜなら、そう、思いっきりピザをこがしてしまったのだ。
もう慣れたものだと思って油断したのが悪かった。
なので、真昼間から銀様が罰ゲームとして俺を椅子代わりに使っていたり、
こうして尻を叩かれたとしても文句はいえなかった。
「銀様…いま見てる映画俺もスゴーク見たいんだけど」
「あら?そぉ?じゃあ首を横にむけてみたらぁ」
と映画がアクションシーンに入ったのを見ながら、どこか上の空な声で返してくる。
約二時間。ずっと同じ姿勢だったので、腰、足の痺れが来ている。
俺も見たかった映画なので首を横向けてみていたため、もちろん首もいたい。
やれやれと思いながら屈伸をして、痺れが取れたのを確認。
テレビの向かいに設置しているソファーにドカッと座り込む。
「あら、そういえば今くんくんの再放送やってるわぁ」
銀様がソファーに座り込んでる俺をみてにやりと笑って続ける。
「そぉねぇ…貴方、延長で私の椅子になりなさぁい」
おいおい勘弁してくれよ。
そう思いながら立ち上がろうとしたときだった。
ぽすっ と銀様が俺の膝の上に座ってきた。
「延長だからこのままでいいわぁ」
くんくんのOPの軽快な音楽をBGMにして銀様が言った。
水銀燈は可愛いなぁ(*´Д`)
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銀様の後姿。流れるような髪。風と共に流れてくる香り。
くびれた腰、そんな光景を毎日のように見ていたのだが、何故か今日だけはいつもより色っぽく見える。
微笑みかけるその顔すら、今は淫猥な笑みにさえ見えた。
「ちょっとぉ…どうしちゃったのよぉ。今日はなんだか変な顔よぉ」
「あぁ、ごめんよ銀様。もとから変な顔だからね」
ちょっとした自虐を入れつつ、いつもの調子に戻そうと必死である。
「もしかして、ムラムラしちゃったのぉ?よぉやく私の魅力に気付いたようねぇ」
チロリと舌を出しつつもイタズラっぽく笑っているので、本人も冗談で言っているみたいだ。
ただ――いまの俺には冗談にならん…っ!
「あ…らぁ……」
銀様を押し倒していた。
「貴方らしくない冗談ねぇ」
そういう銀様も何故か伏せ目で、すこし声の震えがあった。
銀様の両手首を俺が両手で押さえ込んでいる。
「ねぇ、そろそろ放してくれない?じゃないと本気でおこ――」
「――やってみるかい?銀様。嫌なら本気で振りほどけよ!!」
蒸すような暑さを忘れさせるような、風が吹き込んでくる。
相変わらず俺の下になっている銀様の目は揺れ動く。
しだいに目を閉じてそっぽを向いてしまう。
どうしてだろう、俺はそのまま放すつもりだったのに。
気付けば己のズボンを下ろし、銀様のドレスをたくし上げていた。
いきり立ったモノを、銀様の両足を掴んで引き寄せてあてがう。
先っぽが少し入り途端に俺は一気に腰をねじ込む。
それも銀様を壊すような乱暴さを帯びた勢いで腰をたたきつけ、また奥まで入れてから円を描くように無茶苦茶に腰を動かした。
銀様の中に精を放つと、抜きもせずに俺は座るような格好になり、銀様の腰を持って今度は下から突き上げる。
そうやって俺は何度も何度も銀様を壊すように貪った。
始終銀様は目を閉じていた。
「もぅ満足?」
モノを抜いて息を整えて、服を着始めた俺に銀様が声をかける。
ボタボタと溢れるように銀様の股間から俺の放った液体が零れ、それを銀様がティッシュで拭っている。
「ごめん…本当にごめん」
銀様は無言で、無表情で着崩れたドレスを直していた。
「――っとぉ、起きなさいよ!」
コツンと頭に衝撃、銀様のゲンコツに慌てて俺は飛び起きる。
「はへっ!?あ、銀様!!…ごめん!御免なさい!スミマセンでした!!」
慌ててベッドの上で土下座をし始めた俺を見ながら銀様が怪訝な表情を浮かべる。
「…ついに頭まで壊れちゃったのぉ?」
いつまでも寝てるからそうなるのよ。と銀様が言いながら時計を指差す。
時刻は午前11時。俺にしては大分寝てしまった。
お?寝てた…?夢だったのか。
がっかり半分安心半分な心境の俺に銀様が、そろそろ昼ご飯のメニュー決めないと間に合わなくなるわぁ。
とだけ言い残して先に居間に行ってしまった。
こうしちゃいられない。俺も慌てて服を着替え始める。
お ま け
「ねぇ、昔の漫画家の偉い人の台詞だけど、『夢オチは絶対にダメだ』っていう台詞しってるぅ?」
砂糖大目、ミルクも大目のコーヒーを一口飲んで銀様が聞いてきた。
「知らないなぁ」
何故か俺はごまかす様に慌てて、銀様と同じような甘い、甘すぎるほどのコーヒーを飲む。
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「銀様って剣持ってるでしょ?」
興味本位で聞いてみたところ、あぁこれね。
と銀様が手をかざすと、羽が剣の形をかたどり手品のように剣に変わる。
おぉ…スゴイネ。
「で、これがどうかしたの」
そう言いながら俺の鼻先を掠めるように真一文字に素振りするのはやめて欲しい。
「いや、ね。俺ちょっと前に剣道やっててさ、それなりに使うことは出来るんだけど…」
「ど?」
「銀様は剣術とか習ってるの?」
「ないし、必要ないと思うけどぉ」
「で…なんでこんなことに?」
「なんでって、私の我流が弱いとか言ったじゃないの」
だからといって、何故か剣を抜いた銀様と俺が竹刀を持って向き合っている。
銀様の剣はそのままだと危ないので、銀様に羽で巻いて斬れないようにしてもらっている。
「あ、ちなみに貴方は攻撃しちゃだめよ」
逃げて逃げて防御することなら慣れているので、あえて何も言うまい。
「いくわよぉ♪」
なぜかノリノリの銀様が真っ直ぐに突っ込んでくる。
まぁ、そんなに広くないので正面から来るしかない。
剣術の基本の基本として中央を取らせなければ負けることはない。
「死になさぁい!!!!」
表情からして普段のオシトヤカな銀様とは思えないほどで、渾身の一撃なのだが。
殺気満々で振り下ろす銀様の刃を、俺が半歩引きながら滑らせるように受け流す。
思いっきり勢いのまま銀様が顔面からこけて、三十センチほど滑る。
両足がパタと力なく落ちて、ようやく銀様の体が止まった。
銀様が信じられないと言った顔で俺を見上げる。
涙目なのか…?
「銀様大丈夫!?ごめ――」
「いいから、もう一度続けるわよ……!!」
すくっと銀様が立ち上がり再び構えなおす。
「銀様……真っ直ぐ打ち込んできてもあたらないからね…?」
そう一言だけアドバイスし、どうしようかと考える。
1(甘んじて銀様の一撃をくらう)
2(いや、俺は男だ。真剣勝負だ。とマジでやる)
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銀様が再び同じように突っ込んでくる。
負けず嫌いな性格のせいか、応用と言うものが無い。
それならそれで。と俺は少し前に出ながら銀様の斬撃が出る前に受け止め、振り払う。
思いっきり体勢を崩した銀様が構えなおす前に、俺は右手一本で竹刀を振るって銀様の剣を叩き落した。
呆然とした表情で銀様は座り込んでしまった。
俺はゆっくりと銀様に近づく。
先程から床に座ったまま肩を震わせている
「銀様…?」竹刀を置いて銀様の横に座り込む。
「…んッ、わ、わた、私は、最強の…ドールな、のよ。なの、っに」
とエグエグしつつ体を預けるように俺に泣きついてくる。
「大丈夫だよ銀様。ちゃんと僕が教えて上げるから」
と言うと益々泣きはじめた。
銀様の頭をゆっくりと撫で始めて十分も経たない内に、そのまま銀様は寝てしまったようだった。
起こさないように俺はゆっくりと銀様を抱きかかえてソファーに眠らせた。
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「銀様、今日の映画一緒に観よう?」
「映画?今日のは一体どんな映画なの?」
少し銀様は乗り気である。
まぁ、昨日コマンドーを見ているときに暴れられて死にそうになったけどね…
「『時をかける少女』っていうアニメ映画だよ」
ついでに、青春モノであることも説明した。
「マッチョガイがマシンガン持って暴れる映画はないのぉ?」
「…もしあったのならあえて教えないよ……」
絶対に銀様には『トゥルーライズ』は観せないようにしよう。
ん…!?もう始まった!!?
「銀様ぁ〜もう始まったよ!」
「はいはぁい」とソファにポスッと座る。
今日はこうやって銀様の隣に座っても大丈夫だよね?
さすがにこういう映画では興奮しないよね?
そう自分に何度も言い聞かせて俺はテレビを見つめる。
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で…だ。
とりあえず映画を観てて、最後の方で銀様がそわそわし始めるし、
具合でも悪いのかと思って顔を覗き込もうとしたら軽くビンタされるわで散々だった。
「あれ?銀様、もしかして泣、痛い!痛いです痛いれう!!」
俺の手の甲をギュッとつねる。
「フン、青すぎる話だったわねぇ、あーもう眠くなっちゃったぁお休みなさぁい」
といつもより早い時間に、震えた声でそんなことを言って鞄の中に入ってゆく。
結局最後まで銀様の顔を見ることはできなかったが、泣いてたのかな?
別に照れなくてもいいのに。
実は俺はコレで観るのは四度目になるのだが、やはりED曲は削るべきではないだろう。
そんなどうでもいいことを考えながら少し早いが眠ることにしよう。
あ…そういえば買っておいたコーヒーゼリー余ってたな…
それ食べて寝よう。
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「あー…日曜日かぁ…なにもしたくないなぁ」
「典型的なダメ人間の台詞ねぇ」
ソファにごろ寝している俺を見て、銀様が淡々とした感想を漏らす。
先程昼飯にグラタンを作って、二人で食べたところだ。
「ちょっとは出かけたりしてみたらぁ?」
「ヤだよ。銀様といる方がいいからね」
「散歩なら私もついて行くわぁ」
俺の腹をぽすぽす叩きながら言う。
「え?ホント!?」
「ただし、私をちゃんと抱っこしないとだめよぉ」
と、俺がそんなこと出来ないことを見越していってる。
だが、俺も漢だ!
「いいよ!銀様。よし!二人で出かけようっ!!」
と俺が銀様を持ち上げて、腕に乗せる。
「なっ…ちょ…ちょっと!」
顔を赤らめて銀様が叫ぶ。「こんなの私が恥ずかしいじゃないの!降ろしなさい!!」
銀様のこんな顔は滅多にみれないので本当に外に出ようかと思ったが、さすがに俺も銀様と同じく恥ずかしい。
まぁ、銀様の可愛い所見れたからいいか。
銀様を床に降ろす。
「まったく、これだから貴方はバカなのよ」
とか色々とブツブツ言っている。
結局二人してソファに座って、テレビのワイドショーを見ている。
「あ、そぉいえば私が昨日とって置いたコーヒーゼリー食べるわぁ」
突然銀様がそう言ってソファからぴょんと飛び降り、心なし嬉しそうな足取りで冷蔵庫に向かう。
む…?
---
む…?
しまった…俺が昨夜食べたのが…
「な…なんでないのよ…」
冷蔵庫を開けた状態で銀様は凍りついたようにその場から動かない。
かと思ったら、今度は僅かながら震え始める。
右手にスプーンを握ったまま…
「わた、私の…コーヒーゼリーが…」
持っていたスプーンを取り落とし、床に当たって硬質的な音を立てる。
何故か俺にはその音が、銀様の心の割れる音に聞こえた。
「銀、様……。コーヒーゼリーは、その、俺が昨夜」
「もぅいいのよ…謝らなくても。ちゃんと貴方に言い聞かせなかった私が悪かったわぁ…」
そう私が悪いのよ。だから全然貴方には責任ないから。
ええ、本当に御免なさい。ウフフ…ひんやりと冷たいコーヒーゼリー食べたかったわぁ…
と、虚ろな瞳で言っているのが怖い。
「そう、全部私が悪かったわぁ…ごめんなさぁい」
床に落ちたスプーンを恨めしげにじっと見ている。
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「いや、あそこまでヘコまれたら、どう考えても買ってこないとダメだろ…」
最寄のコンビニへ向かっている間、俺は一人ごちていた。
そっと家に帰る。
居間に入って目に飛び込むのが、ソファからだらんと垂れた力の無い銀様の両足。
時折ピクピク動くのがまたなんともいえない感が漂う。
その足元にスプーンが落ちている。…そんなに食べたかったのか。
「ただいま銀様」
銀様のだらんと垂れ下がっていたはずの足が、ぴんと力を取り戻し、髪が銀の尾を描くような速度で起き上がる。
「おかえりなさぁい。待ちくたびれたわぁ!!」
出かける前に見た、死んだ魚のような目とは大違いな輝きに戸惑いを覚えながらも言う。
「ごめん、この前買ったやつ…売り切れだったから、ほら、ちょっとサイズが大きいけど」
と言いながら一個300円。300円ですよ?
300円する2倍の大きさのコーヒーゼリーを渡す。
パッと受け取ってそのままカップの蓋を開けながらテーブルに向かい、床に落ちたスプーンをそのまま拾って、突っ込む。
そして、座ると同時にパクリと一口。
「すごぉい!前のより美味しいわぁそれに量も!」
慌てないでゆっくり食べなさい。
何故かこんなところだけ子供っぽい部分の銀様を見ているだけで俺も幸せになってくる。
顔にクリームの飛沫が付いているが、気付かずにコチラを見る銀様を見て思わず吹き出してしまう。
「人が食べてる(はむっ)ところ(はむっ)見て笑うって(ゴクっ)どういうことよ?」
いや、どういう事もなにも、見たままですが…
とりあえず銀様がコーヒーゼリーが好きなのは分かった。
銀様の好きなものをまとめたメモに追加しておこう。
いや、たとえ書いたメモを失くしてもきっと忘れないだろうけど。
モグモグと順調にビッグサイズのコーヒーゼリーを減らして行く銀様を見ながら、今晩の献立を考えていた。
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「ねぇ、ちょっといいかしら?」
椅子に座って本を読んでいたが、とりあえず栞を挟んでおく。
「ちょっとここ見てくれる?」
と、銀様が脱いだブーツを俺に渡してくる。
「んー…ちょっとスレちゃってるね」
「そうなのよぉ。ここ何とかならないのかしらぁ」
眉を寄せて、心配そうな顔である。
「とりあえず磨いたら気にならないくらいになりそうだけど、ちょっとまっててね」
と言って銀様にブーツを返し、取りに行く。
「多分コレで直ると思うよ」
「ホントに?」
「うん、ついでだから両方とも磨こうか」
銀様には椅子の上に立っておいてもらう。
まぁ、こうしないと磨こうにも磨きにくいしね。
さて、磨くとするか。
去年のギフトセットで貰った、使わないハンドタオルにクリームをつけてさっそく磨…
迂闊だった。こうやって足元に近づこうとすれば、銀様の漆黒のドレスが目隠しみたいに邪魔になる。
「…銀様、ちょっと悪いけどね、いや、そのっ…」
「何よぉ。赤くなっちゃってぇ…なんなの?」
とりあえず俺は身振り手振りを駆使しつつ何とか声に出す。
「銀様の、スカートがですね、その上げてもらえると助かる、んだけど、ね、そりゃぁ嫌だよね。
だから、ブーツだけ脱いでちょっと貸して貰えるかな」
「……嫌よ…ちゃんと貴方が、キレイにしてくれるんでしょう?」
と言って、銀様が両手でドレスの裾を持ってゆっくりとたくし上げる。
「これくら、何とも、全然大丈夫なん、だからっ!」
1センチ上げるごとに銀様の顔がどんどん赤くなっているんじゃないかと錯覚するほどである。
見ている俺の顔も非常に熱い。インフルエンザより熱くなってるかもしれない。
ゆっくりと上がって行き、銀様の膝、さらにはその上の――
心頭滅却!心頭滅却!
よし、邪念を祓え…邪念を祓って銀様の両フトモモのその上の…
なんて見るな、見ないように視線をぐっと下げて銀様のブーツを磨き始める。
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よし、終わった…。
両方を磨いてそっと銀様から離れる。
「も、もう終わったのぉ?」
と、何故か目を閉じたまま赤い顔の銀様が聞いてくる。
「終わったけど、なんで銀様目を閉じてるのさ?」
これは純粋に率直に思った質問である。
スカートの裾を放して、ふわりとスカートがなびく。
「恥ずかしい、とか、そんなんじゃないわよ?あまりに貴方がゆっくりで眠かっただけよぉ」
「慣れてない作業だったからね、モタモタしてゴメン」
銀様が椅子の背もたれにもたれてしゃがみ、履いたままのブーツをじっと観察する。
「まぁ、ちゃんとキレイにしてくれたみたいだし、合格といったところね」
「では、お客様。料金の方を…」
「ちょっと、そんなの有るわけ…。ま、いいわ、また今度のツケにしといてぇ」
俺には銀様がこうして、居てくれる事が一番の幸せなわけで。
「ねぇ、コーヒー淹れてちょうだぁい、コーヒー」
「いつものミルクと砂糖山盛りの方?それともブラック?」
椅子に座って、両肘をテーブルの上に立てて頬杖を付きながら銀様が言う。
俺はいつものように聞き返した。
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